頭の整理

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他を先にして自分を後にせよ―岡潔

多変数複素函数論の研究で世界的に有名な日本の数学者,岡潔(1901-1978)が幼少期に父親から受けた唯一の道義教育は「他を先にして自分を後にせよ」というものでした.

これは,決して「自分の意志ではなく,他人の意志に従え」ということではないと思います.第一,和歌山県の田舎に籠り,家族の援助を受けながらとはいえ,数学の研究に関してはほぼ一人で突き進んできた岡に自分の意志がないなんてことはあり得ないことだと思います.また,岡が残した言葉の中に「他人に迷惑をかけなければ何をやっても構わない」,というものがあります.岡は時折公園で大声で歌うことがあったようですが,そんな時でも娘に「お父さん一緒に帰ろう」と言われると素直に一緒に家に帰ったといいます.周りに人もいる公園で大声で歌うなんて,自分の意志がなければまずしないと思いますが,娘の言葉は素直に聞いていることからも,別にすごく自己主張がしたいんだというわけでもなさそうです.

では,「他を先にして自分を後にせよ」というのはどういうことかと言いますと,これは「他を先にして自分を後にする」という「自分の意志」でもって,日々を生きていくということであると思うのです.自分がどれだけ忙しくても,他人の相談事には優先的に乗ってあげる.自分が欲しいものがあっても,他にそれを欲しがっている人がいたら譲ってあげる.自分がやりたくないことがあっても,他の人もそれをやりたくなくて,でも誰かがやらなくてはならないことであれば,颯爽と名乗り出る.そういう生き方なのだと思います.

そして,「他を先にして自分を後にする」という生き方をした結果,自分が苦しいことにぶつかったとしても,それは自分の意志で選んだ道なのだから,そこに後悔や恨みはないのです.自分を見失うこともないのです.他人に迷惑にならないような状況を作ることができたら,後は目いっぱい自分のやりたいことをやるのです.

あと,「他を先にして自分を後にせよ」というのは,「恩の押し売り」とは違います.「恩の押し売り」というのは,必要以上に他人に施すということです.こういう時の施しは,どこか見返りを期待している部分があります.「他を先にする」というのは,他人の頼みは優先的に引き受けるということです.見返りを求めて他人に恩を売ることとは違います.

 

 

 

岡潔―日本のこころ (人間の記録 (54))

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