頭の整理

頭の中を整えるために,色々と書き綴ります

執着が生じる仕組み

仏教では執着は苦の原因とされ,執着を捨てることにより苦から解放されることを目指しています.この記事では,執着が生じる仕組みと,執着を生じさせないために求められることについて私見を述べます.

 

執着は心が一つのところに囚われて,自由に動けなくなっている状態を指します.ここで,心の動きを生じる2つの作用,「自由意志」と「煩悩」を仮定します.自由意志は自分の身体を含めた環境と記憶に制限されず,心を主体的かつ自由に動かす作用です.他方,煩悩は自分の身体を含めた環境と記憶の影響を受けて,心が勝手に動く作用です.心の動きは自由意志と煩悩の2つの作用によって決まりますが,自由意志の働きに比べて煩悩の働きが大きいほど強い執着が生じていると考えることができます.単純な数理モデルを作るとすれば,次のようなモデルが考えられます.

(執着)=(煩悩)/(自由意志)...(1)

また,煩悩には感情(情動)が伴います(浦野).そこで,たとえば次のような数理モデルが考えられます.

(煩悩)=(定数)×(感情)...(2)

(2)を(1)に代入すると,次式が得られます.

(執着)=(定数)×(感情)/(自由意志)...(3)

(3)から,執着を弱くするためには,感情を弱くするか,自由意志を強くすることが必要であることがわかります.感情は煩悩に伴い,煩悩は環境と記憶の影響を受けて勝手に生じます.そのため,感情を弱くする方法は基本的に環境と記憶の操作から成ります.一方,自由意志を強くする方法には環境と記憶の操作は含まれません.

感情を弱くする方法は2つあります.1つは,感情を引き起こす原因となるものを取り除くことです.例えば,宿題をやりたくないという感情が起きている場合,さっさと宿題をやってしまえば,その感情は消えます.あるいは,よそ事に気をとられて宿題のことを忘れている場合も,一時的に宿題をやりたくないという感情は消えます.ただし,この場合よそ事に関わる感情が生じるため,よそ事に関わる感情が宿題をやりたくないという感情よりも弱くなければ,感情は弱くなりません.そのため,気を取られるよそ事はなるべく「どうでもよい事」である必要があります.

他方,感情を引き起こす原因に慣れて,鈍感になるという方法もあります.例えば,料理の味付けがどんどん濃くなっていくのは,味付けによって得られる刺激に対して鈍感になるため,調味料の量を増やさないと刺激が足りなくなるからです.

自由意志を強くする方法は感情に囚われずに考えたり行動する練習をすることです.練習法には,例えば頭に浮かんでくる感情をただ眺める「瞑想」という方法があります.瞑想では感情と自由意志が別物であることの認識をはっきりとさせ,感情に囚われて考えたり行動しないようにすることを目指します.他には,「精神統一」という方法があります.これは,ある課題に専ら意識を向けて,その課題が完了するまでは意識の流れを途切れさせないというものです.課題の最中に感情を認識できなくなることが精神統一の目標になります.逆に,課題の最中に”なんでこんなことしてるんだろう”とか,”頑張ってる自分はすごい”とか思ってしまうのは,課題をうまくこなせていない証拠です.瞑想が感情という力場の中でその場に留まりつづける訓練だとすれば,精神統一は感情という力場の中で目標に向かって進み続ける訓練だといえます. 

 

参考文献

浦野明央,本能と煩悩 第1回 煩悩―本能に根ざした心の働き,東海大学出版部,Web TOKAI

 

 

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