頭の整理

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1次元ランダムウォークにおける原点からの距離の期待値について

ファインマン物理学でも取り上げられている,「ランダムウォーク」における原点からの距離の期待値について計算してみます.

まず,「1次元ランダムウォーク」とは次のような操作のことを示します.

1.原点Oに点Pがある.

2.コインを1回投げる.表が出れば+1,裏が出れば-1だけ点Pを動かす.

3.「2」の操作を延々と繰り返す.

 

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ここで,次のような問題を考えます.

「コインを  {\displaystyle n } 回投げたときに,2点P,O間の距離の期待値  {\displaystyle D_n } はどう表されるか?」

結論から言うと,

 {\displaystyle D_n=\frac{1}{2^n} \sum^n_{k=0} |n-2k|\ \frac{n!}{k!\left(n-k\right)!} }

になります.

 

この問題を次のような枝分かれのある「木」を用いて考えてみます.

まず,木の一番上の点を原点Oとします.はじめに,点Pは点Oにあるとします.次に,「コインを1回投げる」という操作を,「点Pが木を1段降りる」ことで表します.なお,ここでは原点Oを0段目とします.木の各格子点から下に伸びる分枝は,どの格子点でも2本であるため,この2本の分枝をコインの表裏に対応させることができます.ここでは,右側の分枝に降りることを+1,左側の分枝に降りることを-1とします.そして,右側の分枝に降りる確率と左側の分枝に降りる確率をともに  {\displaystyle \frac{1}{2} } とします.

 

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木の各格子点に至る道筋の数は,パスカルの三角形を用いて表され,4段目まで書くと下図になります.

 

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ここで, {\displaystyle D_n } {\displaystyle n=0,1,2,3,4 } について計算してみます.

(1)  {\displaystyle n=0 } のとき

点Pは必ず原点Oにいるため, {\displaystyle D_0=0 } となります.

(2)  {\displaystyle n=1 } のとき

点Pは木の1段目にある2つの格子点のいずれかにいて,いずれの格子点も原点Oからの距離は1です.それぞれの格子点に至る道筋の数はパスカルの三角形よりいずれも1です.そして,それぞれの格子点に至る確率はいずれも  {\displaystyle \frac{1}{2} } ですから,

 {\displaystyle D_1=\frac{1}{2}\left(1\times 1+1\times 1\right)=1 }

(3)  {\displaystyle n=2 } のとき

点Pは木の2段目にある3つの格子点のいずれかにいて,左端および右端の格子点と原点Oとの間の距離は2,真ん中の格子点と原点Oとの距離は0です.それぞれの格子点に至る道筋の数はパスカルの三角形より左端から1,2,1です.そして,それぞれの格子点に至る確率はいずれも  {\displaystyle \frac{1}{2^2} } ですから,

 {\displaystyle D_2=\frac{1}{2^2}\left(2\times 1+0\times 2+2\times 1\right)=1 }

(4)  {\displaystyle n=3 } のとき

点Pは木の3段目にある4つの格子点のいずれかにいて,左端および右端の格子点と原点Oとの間の距離は3,中にある2つの格子点と原点Oとの間の距離は1です.それぞれの格子点に至る道筋の数はパスカルの三角形より左端から1,3,3,1です.そして,それぞれの格子点に至る確率はいずれも  {\displaystyle \frac{1}{2^3} } ですから,

 {\displaystyle D_3=\frac{1}{2^3} \left(3\times 1+1\times 3+1\times3 +3\times 1 \right)=\frac{3}{2} }

(5)  {\displaystyle n=4 } のとき

点Pは木の4段目にある5つの格子点のいずれかにいて,それぞれの格子点と原点Oとの間の距離は左から4,2,0,2,4です.それぞれの格子点に至る道筋の数はパスカルの三角形より左端から1,4,6,4,1です.そして,それぞれの格子点に至る確率はいずれも  {\displaystyle \frac{1}{2^3} } ですから,

 {\displaystyle D_4=\frac{1}{2^4} \left(4\times 1+2\times 4+0\times 6+ 2\times 4+4\times 1\right) =\frac{3}{2} }

 

以上,少し長くなりましたが  {\displaystyle n=1,2,3,4 } について  {\displaystyle D_n } を求めてみました.(1)から(5)の数式を眺めてみると,丸括弧の外側は  {\displaystyle \frac{1}{2^n} } ,丸括弧の内側は各格子点の原点からの距離  {\displaystyle |n-2k| }パスカルの三角形の値,すなわち二項係数  {\displaystyle _n \mathrm{C} _k } をかけたものの和になっています.ただし,ここで  {\displaystyle k } は左端(あるいは右端)の格子点を0として,格子点に順に振った番号を表しています.以上の考察から, {\displaystyle D_n } は次式で表すことができます.

 {\displaystyle D_n= \frac{1}{2^n} \sum^n_{k=0} |n-2k|\ _n \mathrm{C} _k }

       {\displaystyle = \frac{1}{2^n} \sum^n_{k=0} |n-2k|\ \frac{n!}{k!\left(n-k\right)!} }

 

ここで,ファインマン物理学Vol.1第6章で紹介されている根二乗平均距離"root-mean-square distance", {\displaystyle D\rm _{rms} } {\displaystyle D_n } を比較してみます.なお, {\displaystyle D\rm _{rms} } は次式で表されます(ファインマン物理学Vol.1,(6.10)式より引用).

 {\displaystyle D _\mathrm{rms} =\sqrt N }

 

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上図は, {\displaystyle n=100 } までの  {\displaystyle D_ \mathrm{rms} } {\displaystyle D_n } の計算結果です.図より, {\displaystyle D_ \mathrm{rms}\ >\ D_n } が常に成り立つことが予想されます.

 

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また,上図は  {\displaystyle D_n } {\displaystyle D_ \mathrm{rms} } に対する比を示しています. {\displaystyle n } をどんどん大きくすると, {\displaystyle D_n\ /\ D_ \mathrm{rms} } は0.8に収束していくことが予想されます.

 

ところで, {\displaystyle D_n } の計算をするなかで,次の式が成り立っていることに気づきました(不思議です).

 {\displaystyle D_{n+1}=D_n\ \ \ \left(n=1,3,5,\cdots \right) }

 

 

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